山岳地帯

世界の最高齢はフランスのカルマンさんでしたが、これとは別に、世界には三大長寿地区という場所があります。旧ソ連のコーカサス地方、南アメリカはペルーのビルカバンバ、そしてパキスタンのフンザ地区です。フンザはパキスタンでも北の方に位置します。別名は「桃源郷」と呼ばれていました。だいたいヒマラヤ山脈の西端のカラコラム山岳地帯にあり、標高が二五〇〇?三〇〇〇メートルくらいあります。峠をひとつ越えると政情不安なアフガニスタン、中国へ行くにはカララムハイウェーを抜けるとすぐという、そんな場所だと思ってください。フンザのご老人の特徴は、皆非常に元気であるということです。腰の曲がった人は見かけることさえないそうです。日本の調査団が出向いたこともあるのですが、その報告によると、椅子から立ち上がる「アップ・アンド・ゴー」というテストや、シャツのボタンを次々にかけてもらうテストでは、同じくらいの年齢の日本の高齢者に比べて「明らかに良好な結果だった」そうです。つまり、ただ長寿なだけではなく、フンザのご老人は体力もあり、指先が器用で、極めて健康な方が揃っていた、ということです。長く生きているけれどずっと寝たきりだとか、楽しみも笑いも語らいもない毎日を過ごすとするなら、かえつて長く生きることが苦痛になってしまいかねません。たとえば本当に今にも死にそうな人でも、医学の力で「延命」を行なうことは可能ですが、それでは「生かされている」のに過ぎませんね。なぜ、フンザの人々は元気で長生きなのでしょうか? 考えられることはいくつかあります。

 

まずは山岳地帯ですから、標高が二五〇〇メートル以上もあり、空気が薄いのです。私たちが空気の薄いところで活動すれば、当然のことながら少しの運動ですぐに疲れてしまいます。しかし、フンザの方々は生まれながらにそこで暮らしているのですから、強靭な心肺機能を持っているだろうことがうかがえます。また、ほとんどすべての人が農業を営んでいるのですが、険しい山の中なので急な坂道が多く、毎日登山しているようなものなのです。糧面ではあまり恵まれているとはいえないようですが、よく食べるものの中に「あんず(アプリコットとがあるそうです。あんずには良質なカリウムが多く含まれていますから、それも長寿の一因かもしれません。カリウムには、体内のナトリウム(塩分)と結びついて排出してくれる働きがあるのです。それから工場も自動車もほとんどない地域のため空気がきれいであるということ。水も氷河の氷が溶けたものを飲んでいますのでミネラル質が豊富(いわゆる鉱水)であると考えられます。後にも触れますが、水も空気も生命の源ですので、どちらかでも損なわれていては遅老遅死はあり得ません。